ポリプPの飼育日記

ゴキブリを飼っている。

八重岳?馬陸

 

三年前から常に心の片隅に置きつつも本腰を入れて探せはしていなかったとある生き物がいる。

 

最近、知り合いが立て続けに産地を見つけ、「嗚呼そういえば……」と開き直ってポイントに同行させてもらう手筈となった。

 

昼間。山間の細い坂道を進み、川沿いからはまだ暑い太陽の下をえっちらおっちら進む。

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島バナナの花にナガサキアゲハ(Papilio memnon)が群がっていて非常に亜熱帯を感じさせる。

 


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シャッターを切るタイミングで翅を閉じられてしまったコノハチョウ(Kallima inachus)。写真を見返して気が付いたのだがちゃんと脚が四本で、そうかタテハチョウ科だったなと再認識。


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二十分程待ち構えていたが一度警戒されてしまうと全く翅を開かなくなる。結局今回背面を撮る事は諦めた。

 

その後、林内に入り歩くこと数分。乾燥している地面にやや不安を抱きながらも舐め回すように見続けていると前方から「いたよー」との声。


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かなり乾いた条件であったが歩いてくれていた。

ポコックヤエタケヤスデ(Yaetakaria neptuna)である。ヤエタケヤスデ属唯一の種であり、沖縄本島の中でも更に限られたエリアにしか生息していない。名前の通り八重岳が主な生息地とされているが、実際八重岳での個体群は少ないのではないかと思っている……あまり八重岳すらも探せていないが。

 


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本島のアマビコヤスデに慣れてしまった自分には正直思っていたより小さいなという感想を抱いた。しかしよく見るほど成程見覚えのない顔である。ただ、ホルストアマビコヤスデ(Riukiaria holstii)などは本島内でも場所によってかなり大きな変異が見られ、そのパターンの一つだよと言われたら信じてしまいそうな気もする。要するにかなりアマビコヤスデ属っぽいヤスデだ。


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実際の顔はこんな感じ。炎天下の撮影だとTG-5での写真の真ん中に紫の丸が入るようになってしまっており、実際の顔はこんなに赤みがかってはいないが。

 

因みにポコックの分布が本島だけど書いたが、一応伊平屋島にも生息しているという若干眉唾な情報もある。自分はどうも伊平屋に行く時は晴れ男になるらしく伊平屋の湿った条件を味わったことがないのだが、誰か訪れた際には思い出して探して見てほしい。

 

さて、ポコックを見られたぞと満足したその足で次のポイントへ。こっちもポコックなのだが、ひと味違う……という。

 

ポイントの入口に着くなり急峻な岩場を登る。

想定していた環境とあまりに違いすぎてちょっと面食らう。
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崖から思わず写真を撮る。この一歩先は崖である。壁を這うように登り続け、時たまリターを捲ってみる。が、ヤスデの姿は無い。

 

一時間程かかっただろうか、漸く第一村人が姿を現した。


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信じられないカラーリングのヤスデ

これも立派なポコックヤエタケヤスデ……らしい。ピンクポコックと呼ばれる個体群らしく、その後周囲で見つかる個体もピンク色だ。


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ブラックライトで照らすと、


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キチンと蛍光する。ただ、アマビコヤスデ属に比べるとその程度はやや弱い。

 


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こちらはホルストアマビコヤスデ。背面も全て等しく蛍光しているのがわかる。ポコックヤエタケヤスデは側面の蛍光が綺麗に弱くなっているのでこれも区別のポイントになるかもしれない。

 

その後も念入りに探していくと七、八匹に一匹程度の割合で黄色い、本来のカラーリングをしたポコックヤエタケヤスデも見られた。どうやら完全にピンク色の個体群な訳では無いようだ。

 

その後、満足して斜面を降りると行きには全く見かけなかったのにあちらこちらでピンクポコックが歩いている。見逃していたのか、歩いた刺激で出てきたのか、日が落ちてきたから歩き始めたのか──

兎も角、見たいと思っていた種を、しかも特徴の大きく異なる二つの個体群を見ることが出来て大満足であった。

あとは久米島であのアマビコヤスデをリベンジすればもやもやは晴れるのだが……。

 

 

ルリゴキブリ新種記載の話

 

南西諸島産のルリゴキブリ( Eucorydia .sp)が新種記載された。しかも2種。素晴らしい。

今回新たに新種として記載されたのは、奄美以北(宇治群島家島、吐噶喇列島悪石島、奄美群島奄美大島、徳之島)に分布するアカボシルリゴキブリ(Eucorydia tokaraensis)と与那国島にのみ分布するウスオビルリゴキブリ(Eucorydia donanensis)である。

記載者はゴキブリストとして最近メキメキと名をあげている竜洋昆虫館の柳沢静磨氏、『ダニ・マニア』などで知られる土壌動物学者にしてダニマニアの島野智之教授、そしてミクロレピなど幅広い分野の昆虫を研究しており土壌動物にも詳しい鹿児島大の坂巻祥孝准教授。

 

詳細や経緯は柳沢静磨氏のブログゴキブリ屋敷 www.gokiburiyasiki.com を読んでもらうとして、後は自分の思うところなどつらつらと。

 

 

 

元元ゴキブリ界隈では「やっぱ奄美八重山−与那国のルリは違うよね」といった旨の話題はよく上がっており、自分も昨年の三月に奄美大島を訪れた目的の一つにアカボシルリゴキブリの採集があった。結果は奮わなかったわけだが。

 

静磨氏とはTwitterが元で以前から交流があり、その中でルリゴキブリの話題が度度上がり、やれ宇治群島にもいたぞやれ与那国は明らかに違うぞなど色色と話は聞いていたので今回の件は漸くかー、といった感じであった。

記載した本人がこの感想を見たら助走付けて殴りかかってくるやもしれない。

 

しかし記載するというのは本当に大変な作業で、まだ自分は記載の経験は無いがそのサンプルを集める作業から文献を集めて差異を確認し、それをまた一つにまとめた上で"証明"するという一連の流れを想像すると目眩がしてしまう。熱量が注ぎ込まれた珠玉のゴキブリとなったはずだ。自分も頑張りたいが持ち前の飽き性が顔を出す。外出できない昨今の風潮に乗って室内作業をメキメキやる年にするつもりだったのだが。

 

本当は適当な記事を紹介して済ませる予定だったのだが日を経るごとにインターネットでの反響が物凄く、つくづくゴキブリとは良くも悪くも日本人の心を奮わせる虫なのだなあと感じている。それに応じてもう少し確り書くかと書き始めたはいいものの、冷静になると自分は八重山でのルリゴキブリ(Eucorydia yasumatsui)しか採集したことが無かったため、特に語れることは無かった。残念無念。

取り敢えず来年の春前にコロナの波が酷くなっていなければ糞虫やクワガタ、ゴミムシダマシの採集も兼ねて与那国島で採集しようかと青写真を描いている。

 

兎にも角にも、静磨氏おめでとう!そしてお疲れ様です。

こっちも本島で頑張りますので待っていてください……結構長い期間になりそうだけれど。

 

 

 

 

偽ヒメマル雄

 

先日、伐採された木に何かいないかと探していると妙なものが飛び出してきた。

おっ!と思い捕まえてみると、真っ黒なゴキブリ。


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見慣れない。

 


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腹を見て漸く、リュウキュウゴキブリ(Pycnoscelus indicus)だろうと気が付く。

 

実は直前にヒメマルゴキブリ(Trichoblatta pygmaea)の雄成虫がたまたま飛来しており、そのせいもあって一瞬混乱してしまった。
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改めてちゃんと見てみると大して似ていないが、目の前でササッと動かれると思わず勘違いしてしまう。妙な偶然が重なった日だった。

緑だが黒岩

 

今年もクロイワゼミ(Muda kuroiwae)の時期が来た。

今年は梅雨に雨が確り降った上、梅雨明けが宣言された後も時折強い雨が降るという気候だ。故に彼らを見られるタイミングも限られると思い、既にやや遅れていたものの急遽フィールドへ出た。

 

到着したのは七時前頃。日は暗くなり始め、クロイワニイニイ(Platypleura kuroiwae)やオオシマゼミ(Meimuna oshimensis)の声に混じってクロイワゼミも鳴いている。

彼らは羽化してすぐに飛び立ち木の高い所で輪唱に加わるため、盛んに鳴いている時間というのは基本的に羽化を観察するには遅刻だ。

見られたらラッキー、程度に期待せずに散策する。

 

この時期はリュウキュウヒメハンミョウ(Cicindela kaleea humerula)の最盛期でもある。昼行性の彼らは夕暮れ時になると各自思い思いに葉の上などで休みだすため、クロイワゼミを探していると真っ先に目につく種だ。


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交尾しているリュウキュウヒメハンミョウ。

 

クロイワゼミの鳴き声がピークに差し掛かり、矢張り今日は遅すぎたかと諦めかけた時、漸く一匹見つけることが出来た。


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既に翅が伸びきっている。周りに抜け殻も見当たらないため、かなり前に羽化してたまたままだ低位置にいた個体だろう。

いつ飛び立つとも分からないので急いで撮った。別アングルで撮ろうと移動している間に逃げられてしまったため、残念ながら樹皮の被ったこの写真のみだ。

 

取り敢えず観察は出来た。今回はこれでよし。

裏の毛深

 

2年に1度発生するケブカコフキコガネ(Tricholontha papagena)。今年はその発生しない側の年、所謂裏年というものだ。

雄が大半で雌は非常に貴重と言われるケブカコフキコガネだが、裏年だと雄すらその雌ほどの頻度でしか見つからないという。


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そんな裏年の個体を発見した。

実は同じ場所で、自分の知る限り今季既に三頭見つかっている。これで四頭目だ。

前回の表年ではかなりの個体数を確認出来た場所だから確かに環境はいいのだろうが、それにしても数が多い。おまけに、表年と比較しても発生期間が長い。

もう少し継続して調べて、取り敢えず短報で記録しておいた方がいいかもしれない。

 


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結構禿げているので、発生後期ではあるようだ。それでも去年は一月が発生の限界だったが……。

 

博物館にぶらり

 

昼に時間が空いたので八重岳に行ったのだが、突然の土砂降りと突風。止む無く頂上まで登ってそのまま降りた。

 

なんとも締まりが悪いので、たまたま目に入ったもとふ本部町立博物館へ行ってみることに。


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入館料は無料。

 

中は大きく分けて琉球文化の歴史についての部屋と沖縄の自然についての部屋の二つがある。

噂には聞いていたが、展示されている昆虫標本がかなり物凄いものだった。何とは言わないが……。

ある意味ここでしか見られない展示なので、近くに立ち寄った際には是非見てみて欲しい。度肝を抜かれると思う。

 

帰りがけに恩納村博物館にも。
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こちらは自然関連の展示は無いが、その分歴史についての展示はかなり充実している。

 

一日中雨に振り回された日だった。

藪地島をぶらぶらと

 

沖縄には海中道路という、近隣の島を繋ぐ橋があちらこちらにある。

月に一度程の頻度で陸路で繋がった島を定期的に訪れているのだが、今まで記事にしたことは無かったと思い、今回は藪地島の話をば。

 

地島うるま市無人島。海中道路勝連半島と繋がっており、近くには宮城島などがある。

 

無人島とは言え中央の道路沿いに畑が広がっており、それなりに車とすれ違う。

途中途中でめぼしい横道に入ってみるも生き物の姿は薄い。

 

結局末端のジャネー洞まで特に何も無いまま辿り着いてしまった。
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ジャネー洞はそれなりに有名なようで、たまに観光と思わしき人がいる。今日は貸切状態。

 

洞の周りには猫がかなり住み着いており、人を見ると群がってくる。
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可愛いが、複雑な気持ちだ。

去勢手術はしてあるようなのだが、藪地島の、特にジャネー洞周辺は石灰岩質な林が広がっており、ヘビやトカゲモドキなどが生息していそうな環境なので、猫が数匹住み着いているだけで捕食圧はかなりのものだろう。

写真は無いが去勢した猫が野生にいることを肯定するような看板も周囲にあり、勘弁して欲しいという気持ちが強い。

 


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因みに藪地島にはノウサギもいる。恐らくはアナウサギ(Oryctolagus cuniculus)だろう。ヤブノウサギならぬヤブチノウサギというわけか。

猫がこんなに多い環境で良く住み着けるものだ。

 

今回はジャネー洞には入らず、周囲で昆虫を探して終了。鱗翅目の幼虫を数個体見ただけだった。

ジャネー洞はかなり広く、本腰を入れて探索しようとすると非常に時間がかかるだろうが生き物はあまりいない。ワラジムシの仲間とカマドウマの仲間くらいしか見ていない。

ただ、それらもまだ同定していないのでもしかしたら面白い発見があるかもしれないな、と思いつつ今回は帰路に着いた。

 

雨のクリスマス・イヴ

 

 

クリスマス・イヴ。

天気は芳しくない予報だが北部へ。

一応ケブカコフキコガネ(Tricholontha papagena)を探すのが主目的。

 

早めに出たので普段は行かない奥の方まで足を伸ばした。


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オキナワオオモリゴキブリ(Symploce gigas okinawana)

この時期はまだ幼虫も多いようだ。普段はガレ場の隙間や倒木の隙間にいるようで、見かけるのは専ら人工物か草葉の上。ツチゴキブリ類のように夜間になると盛んに徘徊するタイプのようだ。


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道の脇ではハブ(Protobothrops flavoviridis)が器用に斜面を登っている。

申し訳ないが一旦降りてきてもらおう。


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そこそこ大きな個体。模様もはっきりしており、大きさと美しさのバランスが一番良いタイミングだ。


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ライティングで妙な画質になってしまった。


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ヒメハブ(Ovophis okinavensis)も出ている。小雨が降っているものの気温はあまり下がらず、風も殆ど無いため蛙狙いの蛇にとっては好条件。

 

逆に昆虫にとってはあまり良い気候ではないようだ。
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タイワントビナナフシ(Sipyloidea sipylus)

 

移動するとまたハブ。f:id:polipG:20200114151344j:image

これもそれなりに大きい。

 

そしてまたまたハブ。
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この個体はかなり慌てているようだったので取り敢えず証拠写真だけ撮ってそのままサヨナラ。

 

 

その後、ケブカコフキコガネを探し濡れた林内を歩くも一匹も見られず。雨の影響かライトにも虫が全然来ていなかった。